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仙台地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決

宮城県桃生郡矢本町小松字谷地七二番地の一

原告

小松運輸有限会社

(変更前商号 カネシン有限会社)

右代表者取締役

吉田信

右訴訟代理人弁護士

武田貴志

宮城県石巻市千石町二―三五

被告

石巻税務署長 佐藤光英

右指定代理人

黒津英明

阿部覚己

佐々木功一

粟野金順

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成二年四月一七日付けでした原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分を取り消す。

2  被告が平成二年九月一四日付けでした原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税の再更正処分及び同年四月一七日付けでした重加算税賦課決定処分を取り消す。

3  被告が平成二年九月一四日付けでした原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税の再更正処分を取り消す。

4  被告が平成二年九月一四日付けでした原告の昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに同年四月一七日付けでした重加算税賦課決定処分(ただし、同年九月一四日付け重加算税変更決定により減額された後の部分)をいずれも取り消す。

5  被告が平成二年四月一七日付けでした原告の昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、貨物自動車運送事業を業とする有限会社であり、いわゆる青色申告者である。

2  原告は、別紙一覧表1記載のとおり、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年三月期」といい、他の事業年度についても同様に呼称する。)、昭和六一年三月期、昭和六二年三月期、昭和六三年三月期、平成元年三月期の各法人税について確定申告をし、昭和六〇年三月及び昭和六一年三月期については更に修正申告をした。

3  被告は、平成二年四月一七日付けで、原告に対し、別紙一覧表1の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、右各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)について法人税の更正処分(以下、「当初更正処分」という。)及び昭和六一年三月期、昭和六三年三月期、平成元年三月期について重加算税の賦課決定処分をした。

4  原告は、平成二年六月一五日、被告に対し、右各処分について異議申立てをしたが、被告は、同年九月一四日、右異議申立てに対し、昭和六〇年三月期ないし昭和六三年三月期についてはいずれも棄却し、平成元年三月期についてはその一部を取り消す旨の異議決定を行った。

5  被告は、右異議決定と同日付けで、原告に対し、別紙一覧表1の「再更正及び賦課決定」欄記載のとおり、昭和六一年三月期ないし昭和六三年三月期の法人税について再更正処分(以下「再更正処分」という。)及び昭和六三年三月期について過少申告加算税の賦課決定処分、重加算税の変更決定処分をした。

6  そこで、原告は、平成二年一〇月一六日、本件各事業年度の当初更正処分の取消を求めて、また、同年一一月一四日、昭和六一年三月期及び昭和六三年三月期の再更正処分の取消を求めて、それぞれ国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成四年二月三日付けでこれらをいずれも棄却する旨の裁決をした。

7  しかし、被告の前記各処分には次のような違法がある。

(一) 右各処分に先立って被告が原告に対して行った税務調査(以下「本件調査」という。)は、事前の通告をせず、原告の任意に帳簿を見せる等の対応を無視して、無断で原告の机の引出し等を開けて中のものを持ち出そうとしたもので、違法な調査であり、右処分は、このような違法な課税手続により行われたものであるから課税権の濫用にあたり違法である。

(二) 被告は、当初更正処分及び再更正処分に係る原告の所得金額の計算において、原告所有の車両や従業員等が事故により損害を被ったことにより原告が支払を受けた保険金等を雑収入に記載漏れであるとして益金の額に算入しているが、そうであるなら、当該事故に対応する車両修繕費や従業員の休業中の給与等(以下「修繕費等」という。)を損金の額に計上すべきであり、修繕費等を損金に計上しない右処分は誤りである。

(三) 平成二年四月一七日付け当初更正処分及び重加算税の賦課決定処分に対する原告の同年六月一五日付け異議申立てに対し、被告が行った再更正処分は、事前の準備に基づいて更に原告に不利益な新たな更正決定をしたもので、実質上異議申立人に不利益な更正処分をしたものであり、また、原告の右異議申立てを思い留まらせ、あるいは、右申立てを取り下げさせるため、更には、右申立てに理由があり取消又は変更処分をすべき場合に計算上相殺勘定とすべくあらかじめ準備されていたものであるから、原告の異議申立権を不当に侵害した形で行ったもので課税権の濫用にあたり、違法である。

(四) 被告がした重加算税、過少申告加算税の賦課決定処分は、(一)記載のような違法な課税手続に基づいてされたものであり、また、原告には法人税の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたという事実がないのにされたものであるから違法である。

8  よって、原告は、昭和六〇年三月期についての当初更正処分、昭和六一年三月期ついての再更正処分及び重加算税賦課決定処分、昭和六二年三月期についての再更正処分、昭和六三年三月期についての再更正処分及び各加算税賦課決定処分、平成元年三月期についての当初更正処分及び重加算税賦課決定処分(ただし、請求の趣旨4、5の括弧内の限度で。なお、以上の処分をまとめて「本件各処分」という。)の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし6の事実は認める。

2  請求原因7(一)は争う。

同7(二)のうち、被告が当初更正処分及び再更正処分に係る原告の所得金額の計算において、原告所有の車両や従業員等が事故により損害を被ったことにより原告が支払を受けた保険金等を、雑収入に記載漏れであるとして益金の額に算入していることは認め、その余は争う。

同7(三)及び(四)は争う。

三  抗弁

1  本件調査の適法性

被告が原告を調査の対象に選定した理由は、昭和五九年二月と昭和六一年一二月に行った調査で指摘した「保険金収入等の雑収入計上漏れ」が、原告の決算においてその後も是正されていない疑いがあったためであり、原告に対する調査は合理的な必要性があったものである。

本件調査の経過は次のとおりである。

(一) 平成元年一〇月一一日午前九時二〇分頃、石巻税務署所部法人税・源泉所得税第二部門職員の下山悟調査官及び菅原事務官(以下両者を併せて「下山調査官ら」という。)は、原告の法人税調査のため、事前に通知しないで原告の事務所に臨場した。

(二) 下山調査官らは、原告の代表取締役吉田信(以下「吉田」という。)に対し、原告の法人税調査に来たことを告げ、調査に対する協力を求めた。吉田は、当初「今日は忙しいので調査に応じられない」旨述べたが、下山調査官らの再度の協力要請を受け入れて、下山調査官らを吉田の妻で当時原告の取締役であった吉田よし子(以下「よし子」という。)の在室していた事務所内の応接セットに案内した。

(三) 下山調査官が、吉田に対し、「帳簿の作成状況や、保存状況について確認したいので、社長と奥さんの机を見せていただきたい」と要請したところ、同人の承諾を得た。そこで、下山調査官らは、吉田及びよし子の机の引出しを開けてもらい、承諾を得た上で、机の中に入っているものを手に取って一読し、調査に必要と思われるものを選別して机の上に置き、一通り机の中を見終わった後、これらを吉田の机の前の空いている机の上に移して並べた。また、下山調査官が、原告が受け取った請求書や領収書などの所在について尋ねたところ、よし子がロッカーから段ボール箱を持ってきて、「年度毎に区分していない」と述べたので、下山調査官らはこれを取りあえずそのまま右の帳簿書類等と一緒に机の上に置いた。そして昼近くなったため、下山調査官らは、調査を一時中断して、一旦原告の事務所から出た。

(四) 吉田から午後の調査は事務室脇の部屋で行ってもらいたいと求められたので、下山調査官らは、案内された部屋の机の上に午前中に取り揃えた帳簿書類等を運んで調査を再開した。帳簿書類等の間に原告の社員の名前と思われるものや原告と関連すると認められる会社名を記載した組織図があったので、下山調査官が吉田から原告と組織図上の会社との関連について聴取し、右組織図の写しの提出を求めたところ、吉田は写しではなく現物を持って帰っても構わない旨述べた。更に下山調査官は、右組織図を前にしてその時点で在籍している社員について確認したところ、吉田は、右組織図に記載されている社員のうち既に退職している社員の名前を鉛筆で抹消して下山調査官に渡した。

(五) 下山調査官らは、吉田から退職者の退職年月日等を聴取した後、組織図を机の上に置いて他の書類を調べはじめたが、吉田は突然、「午前中に事情は説明済みなのに、会社の恥を持ちかえる必要はないだろう。」旨声を荒らげ、下山調査官が「上司に説明するためである。」と説明しても取りあわず、組織図を掴むと机上の帳簿類等を手で払いのけ、「見せたくない。」と言ってこれらを段ボール箱に入れて事務所の外に持ちだし、原告方の敷地内にあったドラム缶に押し込んで、下山調査官が制止したにもかかわらず、ガスバーナーでこれを焼却した。

(六) その後、下山調査官は吉田に対して調査に応ずるよう説得を続けたが、吉田は興奮しており到底調査に応じるような状況ではなかったことから、菅原事務官が小内法人税・源泉所得税第一部門統括官に連絡して原告の事務所まで来てもらい、今までの調査経過等を説明した。

小内統括官等は、吉田に対し、あらためて調査への協力を依頼したところ、吉田は次第に落ちついてきたので、これ以上帳簿書類等を焼却しないように約束させ、「今週中に今後の調査日程を連絡する。」旨告げて、原告の事務所から退去した。

その後、石巻税務署の調査担当者は、事前に電話で日程を調整した上で、平成元年一一月七日、同年一一月一四二日、同年一二月一六日、平成二年三月二八日に原告の事務所に臨場し、吉田の立会いの下に原告の法人税調査を続行した。

(七) 平成元年一一月七日午前九時二〇分頃、下山調査官は、高橋法人税・源泉所得税第二部門統括官とともに原告の事務所に臨場し、「元帳を貸してもらいたい」と申し入れたが、吉田は「税務署の職員は信用できないから元帳は貸すことができない。ただ自分がいるときは帳簿を見てもよい」と回答したので、高橋統括官が吉田に対して昭和六〇年三月期から昭和六三年三月期までの元帳を提示するよう求めたところ、吉田は、「前回の調査で六三年三月期分だけ調査すると約束したはずだ」と述べ、説得にも応じなかった。

そこで、下山調査官らは提示を受けた昭和六三年三月期分だけの総勘定元帳を検討し、複写の許諾を求めたが吉田に断わられたため、右元帳から「役員未払金」「外注修繕費」の両勘定を書き写した。

(八) 同年一一月一四日、下山調査官は高橋統括官とともに、原告の事務所に臨場し、引き続き六三年三月期の総勘定元帳の検討を行った。高橋統括官が右元帳を複写したい旨申し入れ、吉田の了承のもと、高橋会計事務所の担当者である松谷の手を借りながら必要な勘定科目について複写した。

また、高橋統括官は、吉田に対して、焼却した平成元年三月期の総勘定元帳を右高橋会計事務所に復元してもらうよう要請したが、同人はこれを拒絶し、昭和六〇年三月期から昭和六二年三月期までの総勘定元帳の提示を求めたのに対して、「処分して元帳はない」と言って応じようとしなかった。

(九) 同年一一月一五日以降、下山調査官は、調査日程を決めるために原告に再三電話したが、吉田が多忙であることを理由に断わられ続けたため、原告の取引銀行である株式会社振興相互銀行(現在の商号は株式会社仙台銀行)石巻支店及び株式会社七十七銀行石巻支店に対して預金調査を行い、右各店に設けられていた原告代表者の吉田個人名義の普通預金を把握した。更に、下山調査官は、原告の所有する車両が事故にあった場合の主たる修理先であった宮城三菱ふそう自動車販売株式会社石巻支店(以下「宮城三菱ふそう」という。)に対して反面調査を実施した。

同年一二月七日、下山調査官は、電話でよし子に対して、被告が調査で把握した問題点を高橋会計事務所を介して伝えるので、検討の上被告に回答するよう吉田に伝言してもらいたい旨依頼するとともに、右同日、松谷に対して、反面調査により把握した株式会社七十七銀行石巻支店の吉田名義預金の元帳の写しを渡し、税務署としては、右預金の入金額は全て原告の益金であり、帳簿から除外されたものを考えているが、この入金を益金として原告の帳簿に記載しなかった理由と、事故車両に係る修繕費が原告の損金の額に計上しているか否かを確認して、同年一二月一八日までに回答するよう吉田に伝えてもらいたい旨依頼した。

(一〇) 同年一二月一六日、高橋統括官及び瀧音上席国税調査官が原告の事務所に臨場し、右預金の入金内容について吉田から聴取したが、十分な説明を得ることはできなかった。

その後、下山調査官は、吉田と会うため原告会社に数回連絡したが、同人との連絡がとれなかったため、平成二年三月一七日、石巻税務署に赴いた松谷に対して、原告に関する調査結果を説明し、この調査結果について原告から何ら具体的な弁明もしないで修正申告に応じない場合は更正処分せざるを得ないということを吉田に伝えるよう依頼した。 同年三月二八日、高橋統括官と下山調査官が、原告の事務所に臨場して原告の関与税理士であった高橋税理士と松谷の立ち会いの下に、吉田に対して原告に関する調査結果を説明しようとしたが、吉田は来客を同席させたままで説明を全く聞く様子ではなかったため、高橋統括官等は原告の事務所から退去し、その後、高橋会計事務所で、高橋税理士に対して調査結果を説明し、調査結果に対して原告から具体的な申立てがあれば税務署としては再検討する余地があるので、吉田と話し合った上で連絡するよう依頼した。しかし、結局、原告からは回答が得られなかったので、被告は、平成二年四月一七日付けで当初更正処分を行った。

(一一) 以上のとおり、原告に対する本件調査は、実施にあたってあらかじめ吉田の承諾を得て行われたものであり、正当な税務調査の範囲内にあるとともに、帳簿の焼却も吉田が勝手に行ったことであって、被告には何ら違法な行為はなかった。

2  更正処分等の経緯とその適法性

被告がした更正処分等は、以下のとおり、原告の各事業年度の所得金額等と同額でされたものであるから適法である。

(一) 被告は、原告の各事業年度の欠損金控除前所得金額を、原告の欠損金控除前申告所得金額に、次のとおりの加算金額を加え、これから減算金額を減ずる方法で算定した。

(1) 昭和六〇年三月期

欠損金控除前申告所得金額 マイナス六四〇万八二三三円

加算金額(雑収入金額) 九八四万九〇〇〇円

欠損金控除前所得金額 三四四万〇七六七円

(2) 昭和六一年三月期

欠損金控除前申告所得金額 六二九万四七九〇円

加算金額(運送収入金額) 一〇三万六六二七円

(雑収入金額) 九八七万三一七〇円

減算金額(修繕費の額) 二七九万三九〇〇円

欠損金控除前所得金額 一四四一万〇六八七円

(3) 昭和六二年三月期

欠損金控除前申告所得金額 マイナス五九四万四九四六円

加算金額(運送収入金額) 一一万五六一〇円

(雑収入金額) 六五万円

(修繕費の額) 二七九万三九〇〇円

減算金額(未納事業税額) 八六万三八〇〇円

欠損金控除前所得金額 マイナス三二四万九二三六円

(4) 昭和六三年三月期

欠損金控除前申告所得金額 二八二万五六九三円

加算金額(運送収入金額) 二六万七八〇〇円

(雑収入金額) 八七〇万九五六一円

減算金額(修繕費の額) 五八万八〇一〇円

欠損金控除前所得金額 一一二一万五〇四四円

(5) 平成元年三月期

欠損金控除前申告所得金額 二七九万五六五三円

加算金額(運送収入金額) 二四万一〇三六円

(雑収入金額) 九六三万六五二〇円

減算金額(修繕費の額) 四〇五万九六七〇円

(未納事業税) 一〇三万〇八〇〇円

欠損金控除前所得金額 七五八万二七三九円

(二) 加算金額及び減算金額の詳細は、次のとおりである。

(1) 運送収入金額(加算金額)

原告は、運送収入の一部を、原告の会計帳簿に記載のない株式会社七十七銀行石巻支店の原告の代表者取締役吉田信名義の普通預金口座(以下「本件七十七銀行口座」という。)に振り込ませた。その内訳は別紙一覧表2記載のとおりである。原告は、これらの運送収入を原告の会計帳簿に記載せず、所得金額の計算上、益金の額に算入しなかった。

(2) 雑収入金額(加算金額)

ア 原告は、原告所有の車両が事故により損傷を被ったことにより、原告が車両保険契約を締結している住友海上火災保険株式会社及び事故の相手方が対物保険契約を締結している保険会社等からの保険金又は損害賠償金(以下「保険金等」という。)を、本件七十七銀行口座及び株式会社振興相互銀行石巻支店の吉田信名義の普通預金口座(以下「本件振興相互銀行口座」といい、本件七十七銀行口座と併せて「本件各銀行口座」という。)に振り込ませた。その内訳は別紙一覧表3記載のとおりである。

イ 更に、次の〈1〉〈2〉の原告の雑収入の一部(以下「保険金等を除く雑収入」という。)を、本件七十七銀行に振り込ませた。

〈1〉 昭和六二年三月期…昭和六一年五月二八日入金 振込人・株式会社ミロクケイリ・ミウラ 三二万円

〈2〉 昭和六三年三月期…昭和六二年一〇月六日入金 振込人・有限会社タダ産業破産管財人 三万八六二〇円

ウ 原告は、これらの雑収入を原告の会計帳簿に記載せず、所得金額の計算上、益金の額に算入しなかった。

(3) 修繕費(減算金額)

ア 原告の帳簿に記載されず、所得金額の計算上損金の額に算入されていなかったことが判明した次の修繕費について、被告は損金の額に算入した。内訳は次のとおりである。

(ア) 昭和六三年三月期

(事故発生日) 昭和六二年三月四日

(事故車両番号) 宮八八あ一一七七

(修繕費の額) 五八万八〇一〇円

(イ) 平成元年三月期

〈1〉 (事故発生日) 平成元年一月一二日

(事故車両番号) 宮八八あ一五九七

(修繕費の額) 二一万三一五〇円

〈2〉 (事故発生日) 平成元年二月一四日

(事故車両番号) 宮八八か三二七六

(修繕費の額) 三四八万六五二〇円

イ 昭和六〇年一一月一二日に発生した事故車両(宮八八さ八〇一二)にかかる修繕費一四五万円及び同年一二月一七日に発生した事故車両(宮八八か二七九九)にかかる修繕費一三四万三九〇〇円は、昭和六一年三月期に債務が確定しているから同期の所得計算上損金の額に算入すべきところ、原告はこれらをいずれも昭和六二年三月期のそれに計上していたので、被告は、これらを原告の同期の損金の額から減算し、昭和六一年三月期の損金に算入した。

ウ 原告は、被告が益金に計上した保険金等の支払を受けた事故による当該車両の修繕費(右アを除く。)が、原告の所得金額の計算上、損金に計上されていないかのように主張するけれども、原告は別紙一覧表4「原告主張の修繕費等」欄記載の修繕費等(ただし、「被告主張の修繕費等」欄で×印を付けたものを除く。この分はその修繕費の存在又は原告による支払を否認する。)については、該当する事業年度における欠損金控除前申告所得金額において、当該支払金額を、あるいは期末の未払金を一括未払費用としたものを外注修繕費として損金に計上済みである。

(4) 未納事業税(減算金額)

被告は、昭和六二年三月期及び平成元年三月期の直前の事業年度の更正処分及び再更正処分に係る原告の事業税増加額を、次のとおり、それぞれ原告の所得金額の計算上損金の額に算入した。

昭和六二年三月期については合計金八六万三八〇〇円

平成元年三月期については合計金一〇三万〇八〇〇円

(三) 青色申告書を提出した法人の各事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金の額は、法人の当期の所得金額の計算上、損金の額に算入することとされているので(法人税法五七条)、被告は、次のとおり、欠損金控除前所得金額から繰越欠損金額を控除して、原告の各事業年度の所得金額を別紙一覧表1「更正及び賦課決定」欄又は「再更正及び賦課決定」欄記載のとおりに確定した。

なお、法人税法五七条の特例である租税特例措置法(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)六六条の一三の一項により昭和六一年四月一日から昭和六三年三月三一日までの間に終了する事業年度については、直近一年間に生じた欠損金の額を当期で控除せず、翌期以降四年間にわたり繰越控除することとされるから、昭和六二年三月期の欠損金は、昭和六三年三月期の所得金額の計算上損金の額に算入できない。

(1) 昭和六〇年三月期

前期繰越欠損金 八〇二万七一五七円

欠損金控除前所得金額 三四四万〇七六七円

繰越欠損金当期控除額 三四四万〇七六七円

所得金額 〇円

(2) 昭和六一年三月期

前期繰越欠損金 四五八万六三九〇円

欠損金控除前所得金額 一四四一万〇六八七円

繰越欠損金当期控除額 四五八万六三九〇円

所得金額 九八二万四二九七円

(3) 昭和六二年三月期

前期繰越欠損金 〇円

欠損金控除前所得金額 マイナス三二四万九二三六円

所得金額 マイナス三二四万九二三六円

(4) 昭和六三年三月期

前期繰越欠損金 三二四万九二三六円

欠損金控除前所得金額 一一二一万五〇四四円

所得金額 一一二一万五〇四四円

(5) 平成元年三月期

前期繰越欠損金 三二四万九二三六円

欠損金控除前所得金額 七五八万二七三九円

繰越欠損金当期控除額 三二四万九二三六円

所得金額 四三三万三五〇三円

3  本件更正処分の適法性について

国税通則法(以下「通則法」という。)八三条三項ただし書の趣旨は、異議決定手続内において増額決定することを禁止するものであり、通則法七〇条に規定する「国税の更正、決定等の期間制限」に合致していれば、あらためて別個の手続で再更正処分をすることまで禁止する趣旨ではないところ、本件においては、原告の平成二年六月一五日の異議申立に対し、同年九月一四日付けで棄却又は一部取消の異議決定をし、同日付けであらためて別個の処分として再更正処分をしたものであるから、右手続は何ら通則法に反することなく適法である。

4  本件加算税の各賦課決定処分の適法性

(一) 重加算税について

原告は、2記載のとおり、運送収入及び保険金等雑収入の一部を原告の会計帳簿に記載のない本件各銀行口座に振り込ませていたにもかかわらず、これらを原告の会計帳簿に記載せず、その除外したところに基づいて納税申告書を提出したものであり、原告の右行為は、通則法六八条一項に規定する重加算税の賦課要件に該当する。

よって、本件の重加算税賦課決定はいずれも適法である。

(二) 過少申告加算税について

(1) 納付すべき税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものは、通則法六五条四項及び施行令二七条により過少申告加算税の基礎となる税額から控除される。

昭和六三年三月期の再更正処分において、損金算入を否認し、所得金額に加算した繰越欠損金六〇四万一〇五六円のうち、原告が確定申告において損金に算入していた額(金二八二万五六九三円)との差額の三二一万五三六三円は、被告が当初更正処分において誤って損金に算入したものであるから、これについては正当な理由があるものとして過少申告加算税の基礎となる税額の計算から控除される。

右三二一万五三六三円に再更正処分前の所得金額五四五万九八九八円を加えた八六七万五〇〇〇円を基に、前出の法人税六六条一項及び二項により算出した二六八万三五〇〇円が、正当な理由があると認められる事実のみにより更正されたものとした場合の法人税額として過少申告加算税の基礎となる税額から控除されることとなる。

(2) 更に、通則法六八条一項によれば、過少申告加算税の基礎となる税額は、隠ぺい等のされていない事実のみで更正された場合の法人税額であり、これを法人税法六六条一項及び二項(昭和六三年法一〇九号改正前のもの)により算定すると、次のとおり、三八七万円となる。

八〇〇万円×三〇%+(一一五〇万円-八〇〇万円)×四二%=三八七万円

そして、これから右(1)記載の二六八万三五〇〇円を差し引いて通則法一一八条三項により一万円未満を切り捨てた一一八万円が過少申告加算税の基礎となる法人税額である。

したがって、これを基礎として通則法六五条一項、二項により算出された一五万二〇〇〇円が、昭和六三年三月期の過少申告加算税額となる。

一一八万円×一〇%+(一一八万円-五〇万円)×五%=一五万二〇〇〇円

被告の計算は、以上のとおり適法になされたものであるから、本件加算税の賦課決定処分も適法である。

(三) したがって、別紙一覧表1の「更正及び賦課決定」欄及び「再更正及び賦課決定」欄記載の各加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1(本件調査の適法性)について

(一) 抗弁1の冒頭部分は争う。

(二) 同(一)、(二)の各事実は認める。

(三) 同(三)の事実のうち、原告方でロッカーから帳簿、伝票等を出してきたのでこれを下山調査官らが机の上に置いたことは認めるが、その余は否認する。

(四) 同(四)の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実のうち、吉田が組織図をドラム缶に入れてガスバーナーでこれを焼却したことは認めるが、その余は否認する。

(六) 同(六)の事実のうち、本件調査現場に第一部門統括者が来たこと、後日の調査への協力依頼があったこと、後日被告担当者より連絡があり、原告も調査に応ずる対応をしていたことは認めるが、その余は否認する。なお、吉田が調査協力を了解したのは一年分である。

(七) 同(七)の事実のうち、被告担当者が来たときに、税務調査の対象が一年分か三年分かもめたことは認めるが、その余は否認する。

(八) 同(八)の事実は否認する。

(九) 同(九)の事実のうち、被告が原告の取引銀行や宮城三菱ふそうに対して反面調査を行ったことは認めるが、その余は否認する。

(一〇) 同(一〇)の事実は否認する。ただし、被告の担当調査官が高橋会計事務所に連絡を取ったことは不知。(一一)同(一一)については争う。

2  抗弁2(更正処分等の経緯とその適法性)について

(一) 抗弁2の冒頭の主張は争う。

同(一)のとおりに被告が原告の欠損金控除前所得金額を算定したことは認める。

(二) 同(二)(1)の事実のうち、別紙一覧表2記載の金額が本件七十七銀行口座に振り込まれた事実は認め、その余は否認する。

同(二)(2)のア及びイの事実は認めるが、同ウの事実は否認する。

なお、原告が右保険金等収入に対応して支払った修繕費のうち被告が損金算入を認容しないものは、別紙一覧表4「原告主張の修繕費等」欄記載のとおりである。これらについては、原告は該当する事業年度における欠損金控除前申告所得金額において損金に計上していない。

同(二)(3)の事実のうち、アの事実及び被告が宮八八さ八〇一二及び宮八八か二七九九の修繕費について、被告主張のような処理をした事実はそれぞれ認めるが、その余は否認する。

なお、被告がその存在を争う別紙一覧表4〈15〉記載の修繕費については、甲第二〇号証に引揚・救助牽引費として一一万円の記載のあることから明らかである。

また、同表の入金額と判明している費用金額を比較すれば明らかなとおり、全損車両は別として、事故車両で必ずや修理がされていると考えられる場合で、修繕費等が判明していないものが未だかなりの金額で存する。

同(二)(4)の事実について、被告が平成二年九月一四日付け再更正処分において、その主張するような処理を行った点は認める。

(三) 同(三)の事実のうち、被告が本件更正処分、再更正処分の結果、そのような処理をしたことは認める。

3  抗弁3は争う。

4  抗弁4(一)、(二)の事実は否認する。

原告が売上及び雑収入の一部を帳簿に記載せず、所得金額から除外していたのは、単なる計上漏れであり、事実を隠ぺいしたものではない。

また、過少申告加算税の計算に関して、基礎とすべき法人税額は、再更正処分で算出された三七五万円のはずであり、同額から「正当な理由があると認められる事実のみにより更正されたものとした場合の法人税額」(被告の計算では二六八万三五〇〇円)を差し引いた金額一〇六万円が過少申告加算税の対象となる法人税額であるから、被告の計算は誤りである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を援用する。

理由

一  請求原因1ないし6の各事実は、当事者間に争いがない。そこで、以下において、本件各処分の違法性の存否について判断する。

二  本件調査の適法性について

1  まず、本件調査の経緯について判断する。

抗弁1のうち、(一)、(二)の各事実、(三)の事実中、原告方でロッカーから帳簿や伝票等を出してきて、被告がこれを机の上に置いたこと、(五)の事実中、吉田が組織図をドラム缶に入れてガスバーナーでこれを焼却したこと、(六)の事実中、本件調査現場に第一部門統括官が来て、後日の調査への協力依頼をしたこと、後日被告担当者から連絡があり、原告も調査に応ずる対応をしていたこと、(七)の事実中、被告担当者が来たときに調査の対象が一年分か三年分かもめたこと、(九)の事実中、被告が原告の取り引き銀行や宮城三菱ふそうに対して反面調査を行ったことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、証人下山悟、同吉田信の各証言(但し、証人吉田信の証言については後記措信しがたい部分を除く。)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被告は、原告に対して、昭和五九年二月と昭和六一年一二月に税務調査を行っており、その際、小口の運送収入や事故車両にかかる保険金収入が原告の社長個人名義の口座に入金されているなど、「保険金収入等の雑収入の計上漏れ」があって帳簿の付け方が悪いと指摘し、原告はこれに従って修正申告をした。

しかるに、被告において原告が本件各事業年度分の法人税について提出した確定申告書の内容を検討したところ、平成元年三月期の決算について五〇台近い貨物自動車を所有して運送事業を営んでおりながら事故車両関係の保険金等が雑収入その他の収入にほとんど計上されていなかったことが認められたため、先の税務調査の際に指摘した「保険金等の雑収入の計上漏れ」がその後も是正されていないのではないかという疑いが生じた。そのため、被告において、原告の法人税に関する調査の必要があると認め、石巻税務署所属の下山調査官に調査を命じ、平成元年一〇月一一日午前九時二〇分ころ、下山調査官は菅原事務官と二人で原告の事務所に赴いた。

(二)  吉田は、税務調査への協力を求める下山調査官らに対し、当初こそ「今日は忙しいので調査に応じられない」等と対応したものの、下山調査官らの説得に応じ、協力の要請を承諾して、下山調査官らを事務室内の応接セットに案内した。下山調査官らは吉田から原告の帳簿書類の作成状況や保存状況を尋ね、これらについて確認するため机の中を見せてもらいたい旨申し入れたところ、吉田も承諾したので、吉田の机の引出しは吉田に、よし子の机の引出しはよし子にそれぞれ開けてもらって中に入っているものを確認し、よし子の机の引出しの中にあった平成元年三月期の総勘定元帳を含めて調査に必要と思われるものを机の上に置いた。

また、下山調査官が原告の受け取った請求書や領収書の所在について尋ねたところ、よし子が年度毎に区分してはいないと述べてロッカーからこれらが入った段ボール箱を持ってきたので、それも机の上に置いた。

下山調査官らは、吉田から事務所の壁にかかっていた原告の内部組織を図式化したパネルについて説明を受けたが、昼食時期になったため、調査を一旦中断し、食事のために外出した。

(三)  午後の調査は吉田の申入れに従って事務所脇の部屋に移って続行した。下山調査官は帳簿書類の中に前記パネルと同じ原告の内部組織図を発見したので、社員の名前や給与の支払事実等を確認するために必要と考えて、そのコピーを貰えないか頼んだところ、吉田は現物を持って帰ってよいと答え、右組織図に書かれている社員で既に退社している社員の名前を鉛筆で抹消してこれを下山調査官に渡した。

ところが、下山調査官がこれに退職年月日を記入して机の上に置いて他の書類を見ようとしたところ、突然吉田が怒りだして、「午前中に説明したことを重ねて聞いた上で、何も会社の恥を持って帰る必要はないだろう。」と声を荒らげ、下山調査官が「上司に説明するためである。」と説明しても取りあわず、右組織図を掴むと机の上の帳簿書類等を手で払いのけ、「見せたくない。」と言って、これらを段ボール箱に入れて、事務所の外に持ち出し、原告の敷地内にあったドラム缶に押し込んで、マッチで火をつけた。吉田の豹変ぶりに驚いた下山調査官が火のつけられた紙を取り出して火を消すなどし、聞き方が気に障ったのであれば謝るから書類を燃やさないでほしい旨吉田に申し入れて制止したにもかかわらず、更には近くでガスバーナーを使用していた社員から、これを取り上げて火をつけて焼却した。

下山調査官は、右焼却された書類のうち、総勘定元帳については平成元年三月期のものだけであることを確認している。

(四)  その後、下山調査官は、重ねて吉田に対して税務調査への協力を申し入れたが吉田に聞き入れてもらえず、かえって、吉田が事務室内の窓ガラスを叩き割るなどして荒れたため、菅原事務官に指示してが公衆電話から石巻税務署に電話をかけさせて、統括官に来てもらうように手配した。

約三〇分程して右連絡を受けて、小内第一統括官が来たので、下山調査官は調査の経過を説明した。吉田は、小内第一統括官に対して下山調査官らの調査が行き過ぎだと抗議したが、気持ちが落ちつくと、後日の調査に応ずることを約束した。

(五)  下山調査官は原告に電話で連絡して、第二回目の調査を平成元年一一月七日と約束して、当日の午前九時二〇分ころ、高橋第二統括官と二人で原告事務所に臨場した。そして、下山調査官らは、吉田に対して昭和六〇年三月期から昭和六三年三月期までの総勘定元帳の提示を求めたが、吉田は前回の調査で六三年三月期分だけを約束したはずだと述べて他の年度分の提示を拒み、昭和六三年三月期分についても、機械コピーを断ったので、下山調査官らは、原告の経理を依頼されていた高橋会計事務所の松谷の立会いの下で、吉田が承諾した午前一一時三〇分ころまで、昭和六三年三月期の総勘定元帳から役員未払金勘定や外注修繕費勘定を書き写すなどして調査を実行した。

同年一一月一四日に吉田の承諾を得て、高橋第二統括官と下山調査官は原告事務所に三回目の調査のため臨場した。この時は、吉田の承諾を得て、松谷の手を借りながら昭和六三年三月期の総勘定元帳の必要な勘定科目を機械コピーした。また、下山調査官は吉田に対して、平成元年三月期の総勘定元帳の復元をするよう申し入れたが、吉田は復元する意思はないと答え、また、昭和六三年三月期以降の総勘定元帳の提示を求めたが、吉田は処分して元帳はないと答えた。

(六)  下山調査官は、同年一一月一五日以降、調査日程を決めるために原告に何度も電話連絡をしたが、吉田に多忙であることを理由に次々と日程を変更されて臨場調査を続行できなかったため、被告は、原告の取引銀行である振興相互銀行石巻支店と、平成元年一〇月一一日の調査の際机の中にキャッシュカードの存在が確認できた七十七銀行石巻支店に対する反面調査を行なった。

右反面調査の結果、本件各銀行口座の存在が判明し、保険会社からの振込が相当ある出入金状況等から吉田個人だけに帰属するものでないと判断されたため、更に、下山調査官は、原告の所有する車両の主たる修理先であった宮城三菱ふそうに対しても反面調査を実施した。

そして、同年一二月七日には、下山調査官は、電話でよし子に対して、被告が調査で把握した問題点を高橋会計事務所を介して伝えるので、検討の上被告に回答するよう吉田に伝言してもらいたい旨依頼するとともに、右同日、松谷に対して、反面調査により把握した七十七銀行石巻支店の吉田名義口座の元帳の写しを渡し、税務署としては、右預金の入金額は全て原告の益金であり、帳簿から除外されたものと考えているが、この入金を益金として原告の帳簿に記載しなかった理由と、事故車両に係る修繕費が原告の損金に計上しているか否かを確認して、同年一二月一八日までに回答するように吉田に伝えてもらいたい旨依頼した。

右銀行等に対する調査の結果を踏まえて、同年一二月一六日に、第四回目の調査のため、高橋第二統括官と瀧音上席調査官が原告の事務所に臨場したが、吉田は来客者を同席させたまま対応したので、高橋統括官らは十分な調査ができなかった。

その後、下山調査官は吉田と会うために原告に数回連絡したが、同人との連絡がとれなかったため、平成二年三月一七日、石巻税務署に赴いた松谷に対して、原告に関する調査結果を説明し、この調査結果について原告から何ら具体的な弁明もしないで修正申告に応じない場合は更正処分をせざるを得ないということを吉田に伝えるよう依頼した。

平成二年三月二八日、五回目の調査のため、高橋第二統括官と下山調査官は矢本町に移転した原告の事務所に臨場したが、この時も、吉田は来客者を同席させたまま対応したので、高橋統括官らは十分な調査ができなかった。

その後、吉田からも高橋会計事務所からも何の連絡もなかったため、被告は、平成二年四月一七日付けで本件更正処分を行った。

証人吉田信の証言中、右認定に反する部分は証人下山悟の証言に照らしてにわかに信用できない。

2  ところで、法人税法一五三条は、「調査について必要があるとき」は、法人に対して質問し、またはその帳簿類等を検査することができる旨定めている。右「調査について必要があるとき」とは、「具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合」をいうところ、確定申告後に行われる法人税に関する調査については、当該調査の目的や調査すべき事項からみて、一般人においても当該調査が必要であると肯認しうる場合であることが必要と解される。

これを本件についてみるに、1の認定事実によれば、(1)原告は昭和五九年二月と昭和六一年一二月の税務調査の際に保険金収入等の雑収入の計上漏れがあって帳簿の付け方が悪いと指摘されていたこと、(2)それにもかかわらず、原告の平成元年三月期の決算について、五〇台近い貨物自動車を所有しながら、事故車両関係の保険金等の雑収入等がほとんど計上されていなかったこと、(3)そのため、被告においては、先の税務調査の際の指摘事項が未だ是正されていないのではないかとの疑念を抱き、本件調査を開始したことが、それぞれ認められる。

右事実によれば、被告が原告の法人税に関して調査が必要であると考えたことには合理性があり、税務調査の必要性を首肯しうる。

なお、平成元年一〇月一一日に実施された本件税務調査について、被告に対して事前の通知がなかったことは争いのないところであるが、事前の通知は税務調査についての法律上の要件ではないうえ、原告の当時の代表者であった吉田は、始めは「今日は忙しいので調査に応じられない。」と述べていたものの、下山悟調査官らの協力要請に応じたものであるから、その調査の開始に当たって格別不合理な事情は認められない。

3  また、原告の指摘するように、本件調査の実施に際して、原告の任意に帳簿を見せる等の対応を無視して、無断で原告の机の引出し等を開けて中のものを持ち出そうとしたというような事実は、証拠上これを認めることはできない。

却って、1の認定事実によれば、被告の原告に対する本件の一連の税務調査は、実施にあたってあらかじめ原告の代表者である吉田の承諾を得て行われたものであり、帳簿書類等についても原告が任意に提示したものだけを調査しており、吉田の意に反して調査を強行したというような事情が存しないことが認められる。

4  そして、他に本件調査が、違法な調査であったと認めるに足りる証拠はなく、したがって、右調査を前提にして行われた本件処分もその限りでは課税権の濫用にはあたらないというべきである。

三  原告の所得金額の算定について

被告は、原告の欠損金控除前所得金額を、原告の欠損控除前申告所得金額に、原告の益金として加算すべき金額を加算し、損金として控除すべき金額を減算する方法で算出し、これに基づいて本件各処分をしたものであるから、右加算、減算の適否について以下判断する。

1  加算金額について

(一)  運送収入金額

本件各事業年度において、別紙一覧表2記載のとおりの各金額が、本件七十七銀行口座に振り込まれたことは、当事者間に争いがないところ、証人吉田信の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、右振込金は原告の運送収入の一部であり、送金の便宜上、吉田信個人名義の普通預金口座に入金されていたと認められる。

以上によれば、別紙一覧表2の記載の各金額は、すべての原告の運送収入として益金として計上されるべきものであるから、これを原告の欠損金控除前申告所得金額に加算した被告の行為は適法である。

(二)  雑収入金額

抗弁2(二)(2)のア及びイの事実は、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、同ウの事実が認められる。

法人税法は、各事業年度における取引にかかる収益はすべて益金として計上する建前をとっているから、右争いのない事実によれば、保険金等である別紙一覧表3記載の金額及び保険金等を除く雑収入はすべて原告の収益として益金として計上されるべきものと解され、これらを原告の欠損金控除前申告所得金額に加算した被告の行為は適法である。

2  減算金額について(事故車両の修繕費等について)

(一)  抗弁2(二)(3)のアの事実は、当事者間に争いがない。

次に、被告が車両番号宮八八さ八〇一二の修繕費一四五万円、宮八八か二七九九の修繕費一三四万三九〇〇円を、原告の所得金額の計算上、昭和六二年三月期の損金から減算して昭和六一年三月期の損金の額に算入したことは、関係法令に照らして適法な処理であると認められる。

(二)  原告は、本件で被告が加算した事故車両にかかる保険金収入等に対応する修繕費(抗弁2(二)(3)のアを除く。)が被告の計算上損金の額に算入されていないと主張するので、この点について検討する。

(1) 保険金等の収入に対応する修繕費として別紙一覧表4〈1〉ないし〈4〉、〈6〉ないし〈14〉、〈16〉ないし〈18〉、〈20〉及び〈21〉記載の原告主張の各修繕費(以下において、別紙一覧表4〈1〉記載の原告主張修繕費を「〈1〉の修繕費」といい、同表の他の原告主張の修繕費も同様に表記する。)が存在することは、当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第六号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二〇号証の一、二によれば、〈5〉の修繕費は、〈4〉の修繕費の請求額の中に含まれていると認められるから、これを〈4〉と重複して計上することは許されない。

(3) 〈15〉の修繕費等について

成立に争いのない甲第二〇号証には引揚・救助牽引費として一一万円が記載されているけれども、同号証は、昭和六〇年一一月一二日に事故を起こした車両(車両番号「宮八八さ八〇一二」)の自動車車両損害調査報告書にすぎず、同号証から直ちに原告が〈14〉の修繕費とは別に〈15〉の費用を負担、支出したものと即断することはできない。むしろ、成立に争いのない甲第一九号証と前掲甲第二〇号証の各金額を対照すれば、〈14〉の修繕費の金額には部品代、工賃とともに〈15〉の費用も含まれていることが推認される。

したがって、〈15〉の修繕費についての原告の主張は理由がない。

(4) 〈19〉の修繕費については、後記(五)で説示するとおりである。

(三)  次に、(二)で認定した各修繕費等が、原告の会計帳簿上、損金として計上されていたかどうか検討する。

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八号証及び二六号証、弁論の全趣旨により原本の存在、成立とも認められる乙第三六号証並びに証人下山悟の証言によれば、次の事実が認められる。

(1) 下山調査官らは、平成元年一一月七日及び同月一四日に原告の事務所に臨場した際、原告から提示を受けた昭和六三年三月期の総勘定元帳から運送収入勘定や雑収入勘定、外注修繕費勘定等、調査に必要な勘定科目を書き写したりコピー機で複写した。

(2) 下山調査官らは、宮城三菱ふそうに対する反面調査を実施し、宮城三菱ふそうの売上補助簿から原告の勘定を書き写し、整備納品請求書控えの中から原告宛のものを抽出した。

右売上補助簿には、原告に対する毎月の部品代や修繕費の請求額及び原告が支払った金額、すなわち、原告に対する売上金額とこれに対する原告の支払金額が記載されており、右請求書控えには、原告宛の毎月の部品代と修繕費が含まれており、売上金額の内訳が判明するようになっていた。

(3) 宮城三菱ふそうは、一般修繕費と事故車両修繕費とを分けずに併せて原告に請求し、原告は原則としてこの請求額を翌月末に端数に切り捨てるなどして支払手形で支払っていた(なお、宮城三菱ふそうからの請求額と原告の支払額とは必ずしも一致しないが、前掲乙第一八号証に照らせば、これは、請求額の端数などを宮城三菱ふそうにおいて値引き処理していたためであると認められる。)。そして、宮城三菱ふそうでは、原告から入金があった時点で売掛けの処理をしていた。また、原告は、毎月の修繕費について支払った分について経費を計上する現金主義を採っていた。

(4) 宮城三菱ふそうの原告に対する勘定元帳と原告の昭和六三年三月期の勘定元帳を照合すると、本件事故車両にかかる宮城三菱ふそうからの修理売上伝票又は整備納品請求書に掲げられている金額に対して原告が支払ったものについては、すべて原告の会計帳簿の外注修繕費勘定又は修繕部品費の項目に計上されており、また未払費用については、期末に一括して外注修繕費勘定に計上されている。

(5) 吉田が焼却したため勘定元帳がない平成元年三月期についても、宮城三菱ふそうに対する反面調査の結果、宮城三菱ふそうが他の年度と同様の方法で原告に対する売掛処理をしていたこと、原告の提出した確定申告書添付の決算書に別段非違は認められず、保険金収入について雑収入勘定に記載がなかったことから、下山調査官は、同年度についても他の事業年度と同様に計上漏れがあったと判断した。

(四)  右の認定事実に徴すれば、昭和六三年三月期については、事故車両にかかる修繕費等のうち、宮城三菱ふそうに修理を依頼したものは、他の一般車両の修繕費や部品代等と併せて、すべて、宮城三菱ふそうから原告に対する請求書の中に含まれ、原告はこれに対して、支払手形を振出して決済しており、その支払額をもって外注修繕費勘定に計上し、期末の未払残高については、これを未払費用として一括して外注修繕費勘定に計上するという形で、すべて原告の会計帳簿に計上していたと認められる。

そして、右の方式は、複式簿記による帳簿組織を備えることを要求される青色申告者であり、かつ会計事務所に経理を依頼していた原告においては、他の年度でも同様の方式が採られていたと解することが合理的であること、反面調査の結果や原告提出の決算書との対比等からすれば、現実に原告の元帳から外注修繕費勘定を書き写したわけではない昭和六三年三月期以外の事業年度についても、同様の処理がされていたと推認することができる。

(五)  前掲乙第一八号証、第二六号証、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の二、第一五号証、第一七号証の一、二、第一八、一九号証、第二一号証の一、四、第二五号証の一、三、原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第一九号証の一ないし八、第二〇号証の三ないし七、第二一号証の一ないし六、第二三号証の一ないし一三、第二四号証の一ないし一九、第二五号証の一ないし二二、第二七号証の一ないし二五、第二八号証の二、第二九号証の一ないし三〇、第三〇号証の一ないし四〇、第三一号証の一ないし二二、第三二号証の一ないし一五、第三三号証の一ないし一四、第三四号証の一ないし一七、第三五号証の一ないし二八、証人下山悟の証言により真正に成立したものと認められる乙第二八号証の一によれば、〈1〉ないし〈4〉、〈6〉ないし〈14〉、〈16〉ないし〈18〉、〈20〉及び〈21〉の修繕費は宮城三菱ふそうの請求書の中に含まれ、原告の会計上損金として計上されていることが認められる(ただし、〈20〉について、原告は当該事故車両の車両番号について「宮八八あ二三八八」としているが、証拠関係に照らせば、「宮一一い二三八八」の間違いと解される。)。〈5〉、〈15〉の修繕費の存在もしくは原告による支払が認められないことは、三2(二)で判示したとおりである。

宮城三菱ふそうの修理売上伝票の計上額と宮城三菱ふそうから原告に宛てた請求書の合計額に誤差のあるものが存するが、弁論の全趣旨によれば、これは、被告において売上伝票の写しを取り忘れたものや、宮城三菱ふそうの本社で扱った修理についての請求書控えが反面調査先である石巻営業所に存在しないため、被告が写しを取れなかったものや、修繕費の額が一〇〇万円を超えるため本社扱いとなり、石巻営業所の元帳にはその請求・入金の事実は記載されていないものがあるためと認められるから、右認定を妨げるものではない。

〈1〉の修繕費については、前掲乙第一八号証、第二〇号証の三、第二一号証の一、第二六号証によれば、宮城三菱ふそうは、右修繕費を昭和五九年四月分で請求したところ、同年五月分の請求書でマイナス処理をする一方で売掛帳の同月分に別枠で請求額として計上したが、同年一〇月分までを売掛金として繰り越し、同年一一月分、一二月分において一〇万〇三八〇円を内払として処理し、残額六七万八六二〇円は原告から入金されることなく、結局昭和六〇年八月分において値引き処理をした形で減額処理していること、右一〇万〇三八〇円については原告の会計帳簿に計上されているが認められる。そうとすれば、〈1〉の修繕費については、その一部について支払がされて原告の計算上損金として算入済みであり、残りの部分については原告において現実に支払った事実はなかったのであるから、これを損金に算入する必要はないというべきである。

〈19〉の修繕費については、〈19〉の事故車両に関して、昭和六二年九月二九日に富士火災海上保険株式会社から三七五万円、同年一二月二二日に原告訴訟代理人から二三万一一四〇円が支払われているが、住友海上火災保険株式会社に対する調査嘱託の結果により認められる他の事故車両にかかる支払金額と損傷内容との関係と対照すると、〈19〉の車両は当該事故により全損状態であったことが窺われるから、右保険料収入から直ちにこれに対応する車両修理をし、修繕費を支出したと推認することはできない。もっとも、他の事故車両における修繕費等の支出状況に照らせば、〈19〉の車両についても事故に伴う何らかの経費(事故車両運搬代等)を要した可能性は認められなくもないが、原告の経費算入処理状況に徴すれば、原告はこれらについても関係経費項目に計上し、損金に算入済みであるものと推認される。原告代表者は、この点につき、右車両は町工場に頼んで修理してもらったが、前記二1(三)の際に右の資料をも燃やしてしまったので、修繕費の内容を明らかにできない旨供述するけれども、原告の同一事業年度に関する他の関係証拠の提出状況に照らせば、右供述はそれ自体疑わしいばかりでなく、弁論の全趣旨によれば、被告の反面調査によっても〈19〉の入金額に対応する修繕費の支出は判明しなかったことが認められる一方、原告は、自らが依頼したというその修理工場に問い合わせるなどして、その経費を明らかにすることができる立場にあるにかかわらず、これをしないのであって、右供述のみでは前記推認を妨げるに十分ではなく、他に右推認を妨げるに足りる証拠はない。

したがって、〈19〉の修繕費についても原告の主張も失当というべきである。

(六)  以上によれば、別紙一覧表4記載の各修繕費ついてその支払が認められるものは、すべて原告の帳簿上経費として計上されており、該当する事業年度における欠損金控除前申告所得金額の計算上損金に算入されていることが認められる。

(七)  抗弁2(二)(4)の未納事業税を、原告所得金額上、損金に算入処理すべきことは、被告の自認するところである。

3  以上によれば、被告が抗弁2(三)の所得金額確定の基礎とした事実に誤りはなく、これに基づき被告のした所得金額の確定と納付すべき税額の決定は、関係法令に照らして適法なものと認められる。

四  本件再更正処分の適法性について

原処分を見直して調査した結果、原処分を上回る所得の存在を発見した場合、異議決定において原処分の不利益変更は許されないが、更正の制限期間内において、原処分庁が前の更正処分の税額が過少であったとして、別個に再更正処分をすることは許される。

本件においては、原告の異議申立てに対し、平成二年九月一四日付けで棄却又は一部取消の異議決定をし、同日付けであらためて別の処分である再更正処分をしたものであるから、被告の行為には通則法違反はない。

右処分が原告の異議申立権を不当に侵害した課税権の濫用によるものと認めるに足りる証拠はない。

なお、更正の制限期間は、税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしていたような不正行為により脱税していた場合には、事業年度終了後二か月の申告期限から七年とされるから(通則法七〇条五項)、後に認定するように、そうした事実の認められる本件においては、昭和六一年三月期ないし昭和六三年三月期の各事業年度に対してした本件更正処分は法定期限内でされたもので適法というべきである。

五  本件加算税の各賦課決定の適法性について

1  重加算税について

原告が、会社の収入となるべき運送収入及び保険金等の雑収入の一部を、本件各銀行口座に振り込ませ、原告の売上に計上しなかったことは三1において確定したとおりである。

これは、売上等の収入を殊更に除外して所得を計算したもので、客観的にみて収入の一部が隠ぺいされ、これに基づき過少申告された場合であるから、本件事業年度の法人税の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当する。

証人吉田信は、保険金収入は、会社の収入ではあるが、これに対応する修繕費としてすぐに支出するものであるから、会社にとっては利益にも損失にもならないという理由でこれを会社の収入に計上せずに個人の通帳に入金させていたと証言するが、重加算税は、各種の加算税を課すべき納税義務違反が、課税要件事実の隠ぺい、仮装によって行われた場合に違反者に課せられる行政上の制裁措置であり、故意に所得を過少に申告したことに対する制裁ではないから、税の申告に際して、隠ぺい又は仮装した事実に基づいて申告するという点についての認識を必要とするものではなく、結果として過少申告等の事実があれば足りるものであるから、仮に前記の証人吉田信の証言を前提としても本件の場合、原告の右認識は重加算税を課すことの妨げとなるものではないというべきである。

被告のした重加算税の算定過程も適法なものと認められる。

したがって、被告が前記の各年度についてした重加算税の賦課決定は適法である。

2  過少申告加算税について

通則法六五条および六八条一項によれば、隠ぺい等の事実があった場合における過少申告加算税は、同法六五条一項に規定する再更正に基づき「納付すべき税額」を算定基礎とするのではなく、同法六八条一項括弧書に規定する「隠ぺい等のされていない事実のみに基づいて更正があったものとして計算した納付すべき税額」に置き換えられた法人税額を算定基礎として課すべきものと解される。すなわち、重加算税の賦課対象となっていない「隠ぺい等のされていない事実のみで更正された場合の法人税額」から、同法六五条四項にいう「正当な理由があると認められた事実のみにより更正されたものとした場合の法人税額」を控除した法人税額が対象となる。

これを昭和六三年三月期の過少申告加算税についてみると、抗弁4(二)の被告の計算のとおりとなる。

右のように解すると、本件のように、再更正処分において新たに認められた加算金額よりも同様に認められた減算金額のほうが大きい場合には、「隠ぺい等のされていない事実のみで更正された場合の法人税額」は、計算上、右処分において納付すべき税額の基礎とした所得金額に右の加算金額と減算金額との差額を加えた、現実の所得金額を超える金額を所得金額として算出されることとなるため、見かけ上必ずしも合理的とは言えない結果が生ずることもありうる。しかしながら、これは、先立つ重加算税の算出において右差額がその減額要素として評価されたことと裏腹の関係に立つものであるから、実質的にも不合理とまでは言い切れない。もっとも、このような場合には、「隠ぺい等のされていない事実のみで更正された場合の法人税額」は右処分において納付すべき税額の基礎とした所得金額を指すものと解する余地がないではないけれども、その場合には、「正当な理由があると認められた事実のみにより更正されたものとした場合の税額」につき、その一部をなす「当初更正処分において重加算税の基礎とした所得」から前記差額を控除する必要がある。そして、本件においては、後者の方法により過少申告加算税を算出しても、その金額が被告の算出したものと変わらないことは計算上明らかである。したがって、昭和六三年三月期の過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

第四結論

以上の次第であるから、被告の本件各処分には、何ら違法は認められず、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 深見敏正 裁判官 穗阪朱美)

別紙一覧表1

(一) 六〇年三月期

〈省略〉

(二) 六一年三月期

〈省略〉

(三) 六二年三月期

〈省略〉

(四) 六三年三月期

〈省略〉

(五) 元年三月期

〈省略〉

別紙一覧表2

(ア) 昭和六一年三月期

〈省略〉

(イ) 昭和六二年三月期

〈省略〉

(ウ) 昭和六三年三月期

〈省略〉

(エ) 平成元年三月期

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別紙一覧表3

(ア) 昭和六〇年三月期

〈省略〉

(イ) 昭和六一年三月期

〈省略〉

(ウ) 昭和六二年三月期

〈省略〉

(エ) 昭和六三年三月期

〈省略〉

(オ) 平成 元年三月期

〈省略〉

別紙一覧表4

〈省略〉

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